240年前に日本から伝わる
樹齢250年といわれるこの椿は、一般に伝えられるところでは、スウェーデンの植物学者トゥーンベリが1755年から1776年にかけて日本を訪れた際に持ち帰った4本の椿のうちの1本だといわれる。これらの苗は、最初は4本ともロンドンの王室キューガーデンに植えられたが、その後、1本をキューガーデンに残して、他の3本はそれぞれハノーバーのヘレンハウゼン庭園、ウイーンのシェーンブルンそしてドレスデン郊外のピルニッツに移されたということである。これが事実であれば、ピルニッツの椿はトゥーンベリが持ち帰った4本のなかで唯一現存するものということになる。
確かなこととしてわかっているのは、この椿が1801年にピルニッツ宮庭園内の現在の場所に植えられたということである。日本にはもっと古くて大きな木もあるそうであるが、ドレスデンでは冬が寒い分だけ手厚く守られてきた。寒気から保護するため、当初は藁(わら)や筵(むしろ)のようなものが使われたが、その後、木の板が用いられ、暖房つきの建物も作られるようになった。1905年の冬、その暖房が元で火事 |
になり、水をかけたところ、マイナス20℃の気温で氷に覆われてしまったが、それがかえって防寒の役目を果たし、次の年にも椿はちゃんと咲いたという逸話もある。
温度や湿度がコンピューターで制御されるガラス張りの温室ができたのは1992年。この温室は以前のように分解して取り外す必要がなく、レールの上を走行して、椿を覆ったり、脇へずれたりすることができる。 温室の高さは13.2m、重量54トン。椿は10月中旬から5月まで温室内にあり、室内の温度は4℃~6℃に保たれる。
開花期は2月から4月。
*この椿については、柄戸正さんがそのルーツを綿密にたどり、2012年出版の「安永の椿」という大変興味深い書物にまとめられている。
*かつてザクセンで盛んに行われた椿の栽培については「椿の植物園」の項参照。 |