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ドレスデン情報ファイル

ドイツの環境・エネルギー政策

   

電力輸出入の動向


   ドイツでは
2022年秋にロシアからの天然ガスの供給が止まり、エネルギー価格が高騰した。そのため、電力など、エネルギー消費が減少し、加えて、石炭発電の再稼働、米国等からのLNGの輸入などによって電力供給の維持が図られた。結果、需給に大きなひっ迫は生じなかった。翌2023年に入ると、残る原発3基が停止する一方、脱石炭も順次再開されたが、それらを代替する風力・太陽光発電の増設が間に合わず、夏以降は輸入が輸出を大きく上回り、一転して入超となった。
 注)この項は一部のグラフを更新しましたが、コメントは未更新です。


まえがき

 電力の需給は1国内で過不足なくバランスさせるのが本来で、商品のように輸出の拡大や輸入の抑制に努めるものではない。
 しかし、日本もそうであるが、1国だけで日中と夜、平日と週末あるいは夏と冬など、条件によって絶えず変動する電力の需要と供給、さらには不測の事態に即応できる体制を整えておくのは容易ではなく、場合によっては無駄も生じる。
 これに対して、ヨーロッパ諸国の電力市場は自由化されていて、相互に送電網で結ばれており、ひとつの大きな市場を形成している。このため、各国の間で必要に応じて電力を融通し合う(取引する)ことによって安定した需給を図ることができる。
 電力取引には、1か月先から最長6年先までの一定した量を契約する先物取引(基本電力およびピーク電力。電力取引全体の約70%を占める)と翌日の一定時間分ないしは24時間分を取引するスポット取引がある。先物取引は供給者と需要者が相対(over-the -counter)で行うが、翌日物はパリの取引所(EPEX)を拠点にデジタルシステムを介して取引される。 この項ではそうして取引される電力が国境を越えて流れるのを「電力の輸出入」として扱っている。
 なお、電力の輸出入には国境を超えて流れる電力で把握する方法と、実際の取引をベースに把握する方法(いわば輸出国・仕向け国別と原産国・消費国別)がある。(「4.相手国別輸出入」参照)


1.概 況

 ドイツは2011年の福島原発事故を契機に脱原発と再生可能エネルギーの推進を決定した。それ以降、 再生可能エネルギーの拡大が急速に進展し、電力全体の供給力が高まり、輸出が増加する一方で輸入が減少をたどった。 供給力の高まりに伴って価格が低下したことも輸出が拡大する要因となった。気象条件によっては再生可能エネルギーだけで 国内需要が満されてしまう時間帯が発生し、行き場を失った石炭電力をマイナス価格で(料金を払って)外国に引き取って もらわなければならな事態が生じることもある。
 2018年頃からは再生可能エネルギーの拡大テンポが低下する一方、石炭発電が抑制されるようになり、出超幅が縮小していった。
 2022年にはロシアからの天然ガスの供給が停止したが、ロシア以外の輸入先が確保されたこと、停止されていた石炭発電を再起動させたこ、再生可能エネルギーによる発電が拡大したことなどから供給力が維持され、電力の出超幅が拡大した。
 統計データ出所:連邦統計庁 "GENESIS ONLINE"


2. 2022年の動向
 連邦ネット庁によると、2022年は電力消費量が前年比で約4.1%減少したのに対して発電量が0.4%の減少にとどまった。この結果、同年の出超幅は前年を50%あまり上回る26.3TWhに拡大した。
 消費量が減少した理由としてはは冬の気候が穏やかであったことや電力料金が大幅に上昇ことなどが挙げられる。
 供給の面では、前年末に残る原子力発電6基のうち3基が停止され、秋にはロシアからのガス供給がストップしたが、大きな影響はなく、停止中の石炭発電の再稼働や再生可能エネルギーの増加でカバーされる形になった。
 この結果、出超幅は例年と同様な推移をたどった。
 2023年に入ってからは太陽光および風力発電の安定した稼働が維持されているが、原子量九発電の停止や脱石炭の再開もあって、輸入が拡大し、輸出が拡大する傾向にあり、5月の入超幅は例年を大きく上回った。


データ出所:連邦統計庁 "Genesis-Online"

3.季節的変動
 通常、ドイツの夏はしのぎやすく、冷房を使う家庭がほとんどないことなどから、夏の間は電力需要が低下する。そのため、夏季は点検整備に入る発電所が多く、電力供給が低下し、周辺国からの輸入が増加する傾向にある。電力の需要が増加する冬は発電所の供給力が高められるが、暖房は天然ガスや暖房油が中心で、夜間や休日には供給に余力が生じ、輸出が増加する傾向がある。隣国のフランスは暖房も電力の割合が高く、冬の電力需要がとくに高まる傾向がある。


データ出所:連邦統計庁データベース "Gemesis-Online"

4.相手国別輸出入

  連邦統計庁の貿易統計によると、相手国別の輸出入は下の2つのグラフのとおりで、2021年はフランスおよびデンマーク、スウェーデン、ノルウェーに対して入超、スイス、オーストリア、オランダ、ポーランドなどに対して出超であった。
 2022年もほぼ同様な形であるが、フランスどの間では輸出入の関係が逆転した。電力の多くを原子力に依存するフランスで全体の約半分の原子力発電が修理やメンテナンス、夏の水不足などで停止し、ドイツからフランスへの輸出が増加し、フランスからの輸入が減少したためである。
 なお、ドイツの電力市場はノルウェーおよびスウェーデンとの間では海底ケーブルで結ばれており、デンマークとの間では陸上ケーブルおよび洋上風力発電設備を介した海底ケーブルで結ばれている。

 




データ出所:連邦統計庁データベース "Genesis-Online"


【国境通過ベースの貿易統計と商業取引ベースの統計】
 貿易統計では送電線で直接結ばれている国との間を往来する電力量が把握されているが、ドイツから他の国へ流れた電力はかならずしもその国ですべて消費されるわけではなく、さらに別の国へ流れるケースも少なくない。
 ドイツ連邦ネット庁は売り手と買い手の取引データを基に商業取引ベースの数字を発表している。電力の需給関係を把握するにはこちらの方が適切だと言える。下のグラフはその取引ベースのバランスと公式貿易統計に基づく国境通過ベースのバランスを比較したものである。取引ベースと国境通過ベースをそれぞれ合計したドイツの出超幅は26.3TWhと27.1TWhで、ほぼ一致している。
 これによると、たとえばドイツからスイスへ流れる電力はスイスとの間で取引される量を大幅に上回っており、ドイツの電力がスイスを経由してさらにイタリアなどへ流れていることが想定される。
 これに対して、フランスの場合はドイツから直接フランスへ流れる電力はそれほど多くないが、その2倍以上の電力がフランスに買い取られている。このことはフランスがドイツから調達する電力の多くが第3国を経由して流れていることを示すものである。独仏間は取引ベースのデータが把握できる2015年以降、規模に変動はあるが一貫してドイツ側の出超で、2022年はこれまでの最大でを記録した。
 なお、国境通過ベースでみた独仏間の電力貿易は2022年までは常にドイツ側の入超であった。「ドイツは自国の原発を停止して、フランスから原発の電力を買っている」といわれるのそのためかと思われる。
 いずれにしてもドイツは現状は全体として電力の純輸出国であり、電力を外国に依存しているわけではない。


注)ゼロより右はドイツの出超、左はドイツの入超。
データ出所:取引ベース 連邦ネット庁電力データサイト"SMARD"
      国境通過ベースは連邦統計庁データベース "Genisis-Online"



Archive 2016

ドレスデン情報ファイルー初版:2011.06.13
改訂:2022.10.02.更新:2022.11.20:改訂:2023.04.23、2023.06.24