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 2. 健全化に踏み出した財政
     (1) 2011年予算・未来パッケージ (2010年7月7日閣議決定)

ドイツ政府は2010年7月7日、2011年の連邦予算案と2014年までの財政計画(Finanzplan)を閣議決定しました。
これによると2011年の予算規模(歳出)は3,074億ユーロで、2010年の当初予算を約121億ユーロ(3.8%)下回ることになっています。また、新規借入額は2011年の575億ユーロから2014年には241億ユーロに削減する計画です。
ドイツは世界的金融・経済危機に臨んで実施した大規模な景気対策や税収の減少などから2010年予算では802億ユーロという巨額の新規債務を余儀なくされました。しかし、ギリシャの財政危機に見るまでもなく、財政健全化はドイツにとっても急務であるばかりでなく、ドイツ政府は基本法(憲法)により新規債務を2016年までにGDPの0.35%(約100億ユーロ)以下にまで引き下げる義務を自ら課しています(債務抑制条項)。こうした中で、ドイツ政府は、財政の健全化は将来の世代に負債を残さず、明日の課題に対処する余力を残すものであり、職場を創造して子孫に明るい未来を残すために不可欠であるとして、2011年予算はそれに向けた大きな一歩と位置づけています。
財政計画では財政健全化はこのところ好調な経済情勢や原子力発電に対する課税や航空税の導入などによる税収増のほか、社会保障費など一部には痛みを伴う支出の削減によって達成する計画です。社会保障費の削減などには批判も多いところですが、そうした中でも教育および研究開発に対しては将来のドイツを支える柱として重点的に投資を行っていく計画です。
ドイツ政府は2014年までに合計820億ユーロに達する財政健全化計画とそのための諸措置を「未来パッケージ」と名づけて、実現をめざしていくことにしています。そのうち、法改正が必要な事項については2010年9月1日の閣議で「予算付随法」にまとめて法案を決定しています。
 2011年予算と財政計画
連邦政府は予算の策定にあわせて、策定作業を行っている年および策定対象の年を含む5年間について中期的な財政計画を立て、予算の位置づけや方向性を示すことが求められています。下のグラフはその中期計画の概要を示したもので、新規債務は2010年の802億ユーロから2014年には241億ユーロにまで削減する計画です。また、総予算規模(支出額)も2010年の3,195億ユーロに対して2011年は3,074億ユーロ、2012年以降は3,010億ユーロ前後の水準に削減する計画です。
2011年予算と財政計画の概要 (単位:10億ユーロ)
未来パッケージ
連邦政府が6月7日に発表した財政健全化に向けた主な具体策は次のようなものです。

1.未来の活力の基盤:教育と研究開発に重点
ドイツの将来を支える柱は教育と研究開発に対して、従来の計画に比べて連邦予算を120億ユーロ増額する。また、各州に対して予算の10%を研究開発の促進に充てるよう求める。

2.補助金の削減と環境保護関連制度の一部見直し
環境税(Oeko-Steuer)における例外措置によって副次的に生じている減税効果をなくし2011年は10億ユーロ、2012年からは15億ユーロの税収増を図る。また、現政権下では新たな補助金の供与や既存の補助金の引き上げは行わない。また、税制の簡素化によって事務的経費の削減を図る。
エネルギー政策の面では、今後原子力発電所の稼働期間延長が必要になるとみられる一方、原子力発電事業者は他の発電事業者と比較して排出量取引、電力料金などの面で有利となっていることなどから、2011年から環境保全などの観点から課税を強化し、年間23億ユーロの増収を図る。
さらに、国際旅客航空に対しては環境面への一層の貢献が求められるが、現時点では国際的な燃料税の導入は現実的ではないため、国内を航空機で出発する旅客を対象に航空税を賦課する。これによる税収は年間約10億ユーロ。航空税の金額は国内を出発する旅客1名毎に距離に応じて8ユーロから45ユーロで。2011年1月1日以降の出発に対して課される。

3.就業へのモチベーションの強化と社会保障制度の一部見直し
社会保障費は連邦予算のほぼ半分を占めており、国家の赤字削減のためにはこの分野でも可能なところでは適正化を図る必要がある。このため、失業手当IIについて期限付き割増金の支給制度を見直す。連邦労働エージェンシーについては効果的な就業支援活動を可能にするため、いわゆる義務的給付を裁定給付に変更する。また、失業手当IIの受給者については国が肩代わりする年金保険料の納入を廃止し、社会保障制度加入義務のある職場への就業を促す。
親手当については、支給基準となる純所得が月1,240ユーロ以上の親について賃金補償率を67%から65%には若干引き下げる。これに対して、月当たり1,800ユーロの最高額はそのままとする。これによって将来も親手当のための資金が確保するとともに、特に中・低所得の就業者に対する支援を確保する。
失業手当IIの受給者について、生活必需品は基本手当と割増手当で確保されている。したがって300ユーロの親手当を支給すると賃金差が縮小し、就業のモチベーションを低下させることになるため、支給を中止する。
子を持つ父親や母親が安心して仕事ができるよう、3歳以下の子供のための託児施設の増設を市町村に求めるとともに、連邦の資金を最大限に活用する。
住居補助受給者に支給されていた暖房費補助はエネルギー需給および価格が安定してきたことから、以前の水準に復すこととする。
このほか、若年層の職業訓練・就業促進のために設けられている多種多様な措置について関係省庁で協議し、整理統合などによって、実効性を高めていく。

4.国防軍を新たな情勢に対応
国防軍についても大幅な変更が必要となっている。国防省はそのための構造委員会を設置し、同委員会は9月はじめまでに正規および期限付き兵力を4万人削減した場合の影響について報告する。
これとは別に、2010年7月1日以降の兵役義務ないしは民間サービスを6ヵ月に短縮する閣議決定はそのまま維持する。

5.行政部門における可能なかぎりの節約と効率の向上
省庁毎に可能なかぎりの経費節減を行う。2011年について予定されている公務員のクリスマス手当引き上げを見送ることで支給額は2.5%減少する。
行政の機能が基本的に損なわれないことを念頭に、連邦の公共サービスに従事する従業員を2014年までに1万人以上削減する。
なお、1999年まで有効であった倒産手続きにおけるいわゆる財政優先権を再び導入して、公共部門を他の債権者と同等の立場に置く。1999年のこの措置により銀行の民営化が大幅に進展した。

6.連邦労働エージェンシーの自主性の強化
就業の支援や斡旋、失業手当の給付などを行う連邦労働エージェンシーが労働市場事業を策定するに際して柔軟性を高め、給付に関する裁量の余地を高める。
失業保険制度は中長期的には連邦からの貸し付けあるいは補助なしで運営できるような形にする。連邦労働エージェンシーは短期間の流動性不足については独自に短期間の借り入れを行うことで対処できるようにする。

7.市町村財政の安定
一部の市町村の財政事情は逼迫していることから、連邦政府が設置した市町村財政委員会において市町村財政の安定に関する提言を行うべく作業を行っている。提言が提出され次第内容を検討し、必要な決定を行うこととする。

8.金融部門による適切な責任分担
金融市場部門は危機のコストを適切に負担しなければならない。そのため、同部門は将来の危機に対して備えを行っておくべきである。連邦政府は銀行課金および新たな再構築基金への繰り入れについて速やかに法整備を行うこととする。
そのほかにもコストの分担について新たな措置を導入する。これについては国際的レベルないしはEUレベルでの対応が望ましいと考えており、今後数ヵ月間で共通の解決策を見いたすための作業を行っていく。連邦政府としては2012年1月からの実施を目標とする。

出所:連邦財政省資料
   
 
  --ドレスデン情報ファイル2010..09.19--