|
ドイツのエネルギー政策,新時代へ |
新・エネルギー政策の概要 |
mixiチェック |
エネルギー転換に数多くの課題
大出力で安定した電力を供給する原子力に代えて、分散型で変動の大きい再生可能エネルギーを中心とする電力供給体制を築いていくにあたっては、 |
|
○ 送電網や配電網の大がかりな再構築
○ ベースとなる安定した電力を供給するとともに、再生可能エネルギーの変動を迅速にカバーできる高効率のガス・石炭火力発電所の整備
○ 効率のよい電力・エネルギーの貯蔵システムの開発
○ エネルギー効率の向上とエネルギーの節約
○ 電力価格の上昇の抑制
など、多くの課題がある。
また、たとえば高圧送電網の設置には周辺住民の抵抗感も強いなど、解決すべき問題も多い。再生可能エネルギーへの転換の先進例として成果が注目される。
以下はドイツが取り組む課題と施策の概要である。 |
|
原子力発電
原子力発電所における発電を段階的に停止し、2022年末までに完全に放棄する。
モラトリアムの期間中停止されていた7基とKruemmel原発は再稼働しない。2015年末までにGrafenrheinfeld、2017年末までにGrundremmingen
B、2019年末までにPhilippsburg 2、2021年末までにGrohnde、Gundremmingen C、Brokdorf、2022年末までに最も新しいIsar
2、Emsland、Neckerwestheim 2をそれぞれ停止する。
なお、それぞれの停止時期は全体で32年の稼働期間を基準している。モラトリアム期間中に停止されていた7基の残余発電量は他の発電所に転嫁できる。
( 原子力発電所リストと所在地図はこちら)
再生可能エネルギー
(1) 再生可能エネルギーが発電に占める割合を現在の17%から2020年には35%に引き上げる。この割合はさらに2030年まで50%、2040年までに60%、2050年までに80%に引き上げることを目標とし、この目標を法律に組み入れる。 このうち、2020年の目標は同年において再生可能エネルギーが総最終エネルギー消費の少なくとも18%に上昇することを意味する。
(2) 送電網の拡充、電力市場および電力システムへの組み入れ、電力貯蔵技術の利用によって再生可能エネルギーが需要に即して電力を供給できるようにする。また、供給の確実性を確保するためにも、2020年までに電力消費量を10%削減する。
(3) EEG割増(訳注:グリーンエネルルギー割増)が現在のkWhあたり3.5セントの水準を上回らず、長期的には引き下げ余地が生まれるよう努める。
再生可能エネルギー法(EEG)
(1)EEGの基本原則を維持して、企業に対して経営方針の立案や投資のためののシグナルとする。
再生可能エネルギー法では電力総消費量に占める再生可能エネルギー電力の割合を2020年までに少なくとも35%、2030年までに50%、2040年までに65%、2050年までに80%とする政府の目標を法律に組み入れる。
(2) オフショア風力、水力および地熱に対するフィードイン対価(買い取り価格)を見直す。過剰補助金や付随利得排除のための制度見直し。たとえば、太陽光発電については発電量に応じた半年ごとの買取価格引き下げ、バイオマス電力の買取システムの大幅簡素化、グリーンエネルギー特権の付随利得効果の排除など。
(3)市場プレミアム制および需要に応じたバイオマス発電に対する柔軟プレミアム制を導入して、再生可能エネルギーの電力市場・システムへの統合促進を図る。これにより、すべての発電設備運営者が発電した電力を自ら市場で販売することが可能になり、需要に応じた適切な発電を行うことによってより高い収益を得ることができるようにする。太陽光発電についてもフィードイン・マネージメントを改善することで、全体的な供給体制への統合度が高まる。
注)従来は再生可能エネルギーによる電力を送電会社の電力網に供給すると、その電力が実際に利用されるかどうかに関係なく、また、電力市場おける相場に関係なく、固定額のフィードイン対価(Einspeiseverguetung)を受け取ることになっていた。法改正により、供給技術にも投資するインセンティブが生まれる。
市場プレミアム制を選択する場合は、発電した電力を単に電力網に供給するのではなく、取引所で販売することになる。こうして販売した場合は、従来の方式で供給した場合の対価と取引所における平均的な金額との差額を市場プレミアムとして受け取ることになる。それによって、電力を販売する者には電力をいったん蓄電したうえで、需要動向ないし価格動向を見ながら電力を引き渡すことによって、利益の増加を図ることが可能になる。
(4)フィードイン対価支払(買取)システムの簡素化
フィードイン対価支払いシステムを基本対価と2段階の原料対価クラスに簡素化し、透明性を高める。対価の額は投入する資材のエネルギー含有量に基づいて算出することとし、今後生まれる原料や廃材・ゴミなどによるバイオマスなどを利用した混合発電を可能にする。
風力
(1)復興金融公庫(KfW)による50億ユーロの特別促進プログラム「オフショア風力」によって最初の10ヵ所の風力パークの実現を支援し、技術や経験の集積を図る。
(2)海洋設備に関する政令(Seeanlagenverordnung)を改正し、ドイツの排他的経済水域における設備の認可手続きを大幅に簡素化する。
(3)建築計画法(Bauplanungsrecht)の改正により、古い風力設備を性能のの高い、高効率の設備に更新(Repowering)するための条件を改善する。また、建物の周辺や上部に太陽光発電設備を設置条件を緩和する。
(4) 内陸部の風力については適性地の指定がとくに重要であり、連邦・州風力イニシアチブで密接に協力していく。さらに、州と共同で風力設備設置の潜在的可能性に関する調査を第3者委託で実施し、それに基づいて新たな適性地を指定する際のクライテリアを開発していく。間隔および高さに関する画一的で硬直的な規制を改め、州との協力で全国共通の、個々の状況に応じた実際的な間隔・高さ基準を開発する。
コスト効率
(1)電力価格を支払い可能な水準に維持するためには、高いコスト効率のもとで再生可能エネルギーの拡充を行っていく必要がある。したがって、コスト引き下げの可能性は最大限に活用していく。風力はコスト効率高く発電を拡充するにあたって最も潜在性の高い分野である。
(2)電力集約的な企業は約100万人を雇用しており対して、ドイツにとって重要な産業である。電力集約的な企業に対しては、排出権取引から生じる電力価格の上昇を相殺するため、「エネルギー・気候基金」による最大5億ユーロのほか、場合によっては連邦予算からそれ以上の補填を行う。これについてはEUレベルでの確認を要する。また、再生可能エネルギー法におけるエネルギー集約的企業に対する負担軽減規定を一層柔軟かつ寛大なものにする。
(産業用電力価格はこちら)
従来型発電設備
(1)現在建設中の化石燃料発電所は2013年までの完成をめざす。さらに、追加的な安全策として、現在建設中のガスおよび石炭発電所に加えて、2020年までに最大10GWの発電能力を確保する。そのため、新たな計画加速法により必要な発電能力の迅速な拡充の条件を整備する。
(2)高効率で柔軟性の高い発電所の必要性に鑑み、新たな発電所促進プログラムを策定する。これも供給の確実性を増し、気候保護に関する目標の達成に寄与するものである。促進プログラムは小規模な発電事業者(たとえば、市の公益事業)の競争条件を改善するため、ドイツ全体の発電能力に占める割合が5%以下の発電事業者を対象とする。
(3)コージェネ(KWK)促進のための資金をより効率的に投入し、エネルギー生産を大幅に増加させる。2016年以降もこの措置を継続することとするとともに、2011年中にコージェネ法を改正してコージェネの促進を強化する。
送電網
(1) 北部の風力による電力を南部への輸送するなどのために、2020年までに3,600kmにわたる新たな高圧送電網を新設する必要がある。とくに高圧送電線が州境を越えて一層迅速な建設をめざす。
(2) エネルギー業法(Energiewirtschaftsgesetz)の改正により、大型の送電網およびガス・パイプ網にかかわる義務的かつ調整された拡充計画の制度(ネット拡充10カ年計画)が導入されている。
各ネット拡充計画によって必要な規模のネット拡充が可能になり、関係先との広範な協議を通じて送電線の拡充に対す受容性を高めるものである。これをベースに需要計画法により送電網拡充の必要性を法的に確認することになる。
(3) 送電ロスの少ない高圧直流送電線の設置のための条件を改善する。
(4) 再生可能エネルギーの拡充は送電網の拡充に大きく左右される。連邦政府は「送電網拡充加速法」の制定によりとくに北部の風力発電を南部の需要中心地域へ輸送するための高圧送電網の拡充を迅速化するための条件を整えた。周辺住民が早い時期に広範に参画することが可能になっている。
(5) 州をまたがる送電線の建設および110キロボルト・レベルの地下ケーブルの設置にかかわる条件を整えるほか、空中電線および地下電線について同一の認可手続きを導入する。
(6) 海上風力パークから送電網への接続はコストのかかる個別接続に代えて集合接続(クラスター接続)を可能にすることで容易にする。
(7) 将来高圧線が通過することになる市町村はインセンティブ調整制度に基づいて送電網運営事業者との間でて資金面の補填で合意をすることができることとする。
スマート・グリッドおよび電力貯蔵
(1) 再生可能エネルギーの拡充およびシステムへの組み込みには配電レベルでのスマートグリッド化が鍵を握る。情報保護と情報の安全性を保証し、分散型の発電・負荷マネージメントを確保し、再生可能エネルギーをベストな形で統合し、、最良のネット負荷を可能にし、消費者段階でのエネルギー効率を向上させるようなネットワークを市場の力で構築していくことを目さす。
(2) 再生可能エネルギーの変動を安定させるためには新たな貯蔵技術の開発と利用を推進する。電力、熱、その他のエネルギーの新たな貯蔵・輸送システムの研究開発の促進に2014年までの第1段階として総計2億ユーロを計上する。
省エネルギー、エネルギー効率
(1)住宅・建物についてエネルギー節約令(EnEV)により、新築基準を2012年から2020年までの間に将来の全ヨーロッパ的最低エネルギー基準に段階的に近づけていく。ただし、建物の所有者と借り主の負担が過大にならないよう留意する。
(2)連邦は2012年以降、すべての建物の新築を最低エネルギー基準に基づいて行う。
(3)エネルギー節約のための改修を支援するため、復興金融公庫(KfW)CO2建物改修プログラムの枠を2011年の9億3,600万ユーロに対して2012年から2014年までは年間15億ユーロに拡大する。2015年には連邦予算によらない措置(たとえば、ホワイト・サーティフィケート)導入の可能性を検討する。
注)当初は、2012年以降、改修コストを税控除の対象とする方針であったが、州の反対で実現しなかった。。
(4)エネルギーの一層効率的な利用や節約おためのコンサルテーションの機会を拡大する。
(5)既存の建物に関する改修ロードマップを作成し、所有者にどのような改修工事によって2050年までに最低エネルギー規準を達成することができるか、判断材料を示す。連邦政府の建物はエネルギー消費の削減にあたって模範の役割を果たすこととする。
公共調達
製品およびサービスの公共調達について、エネルギー効率を選定の基準として法律に盛り込む。そのため、まずは発注規則を改正する。
エネルギー効率に関する欧州レベルのイニシアティブ
連邦政府は欧州レベルでエネルギー効率の向上のための義務的な措置の導入を推進する。とくに、欧州の製品基準およびエネルギー消費ラベルを技術進歩に対応して改新していく必要がある。これらは従来に増して、入手しうる最新の技術水準に相応するよう、定期的に更新する(いわゆるトップランナー方式)。
エネルギー・気候基金
原子力発電所の稼働期間短縮の結果、「エネルギー・気候基金」には原子力発電事業者との促進基金契約に基づく払い込みが見込めなくなる。この収入減は連邦が補うこととし、2013年から年間30億ユーロを負担する。そのため、連邦は、2012年以降、排出証明(Emissionzertifikat)の入札による収入を全額そのままエネルギー・気候基金に繰り入れる。
この基金では、気候保護、再生可能エネルギー、建物等の省エネルギーのための研究開発、対策の実施などを行う。
別途あげたもののほかに、次のようなものがある。
(1)再生可能エネルギーの拡充を研究開発の促進を大幅に強化することによって加速させる。
(2)2020年までに少なくとも100万台の電気自動車がドイツを走行することとし、2030年にはこれを600万台とする。連邦政府はこのため研究開発の資金枠を2013年までに現在の2倍の20億ユーロ近くに引き上げる。
放射性廃棄物最終保管施設
(1)ゴアレーベン(Gorleben)に関する結果を前提としない(erbebnisoffen)調査(Erkundung)に加えて、地質的な適性基準および貯蔵の選択肢としての可能性を導く手続きを開始する。
(2)核燃料税による税収はAsse II岩塩鉱(訳注:核廃棄物貯蔵施設)について必要な設備改修などで生じる財政負担の軽減に充てる。
諸外国との協力
(1)欧州および世界の既存の原子力発電所の安全性向上に向けた国際的協力の推進。
(2)最新技術に基づく規格・基準の推進
(3)近代的な、CO2の少ない電力供給に向けた欧州内および国際的な協調と欧州の電力業および産業における競争の持続的活発化。
(4)発展途上国および中進国さらには中・東欧諸国の気候保護に向けた行動を支援していく。
進捗状況の監視(モニタリング)
対策プログラムの実行を確実なモニタリングによってチェックしていくこととする。そのために、専門機関(エネルギー需給バランス作業グループ、連邦統計庁、連邦ネットワークエージェンシー、連邦環境庁、連邦カルテル庁、連邦経済・輸出管理庁など)のグループに対してエネルギー政策上の主要事項について毎年報告を提出することを委託する。
連邦経済大臣は送電線網の拡充、発電所の拡充および代替投資、エネルギー効率について報告するものとする。また、連邦環境大臣は再生可能エネルギーの拡充について報告を行う。連邦政府はこれらに基づいて連邦議会に対して報告するとともに、必要な場合は勧告を行うこととする。
以上
|
|
|
|
|