ドイツの経済政策 |
3. 成果を挙げる成長志向の財政健全化 |
(1) 2013年予算および2016年までの財政計画(2012年11月23日連邦議会通過)) |
支出を3%削減
ドイツ政府は比較的順調な経済を背景に引き続き財政の健全化を堅持し、2013年予算では基本法に定めた債務抑制条項を3年前倒しで達成する見通しとなっている。
連邦政府が2012年夏に提出し、11月23日連邦議会を通過した2013年(1~12月)の連邦予算の規模は3,020億ユーロ(約32兆円)で、引き続き財政の健全化を重視したものとなっている。
収入面では好調な経済を背景に2013年も約3%の税収増加が見込まれている。一方、支出面では逆に約3.4%の削減を予定している。
これにより、2013年の債務返済を除く赤字幅(純借入額)は前年(補正分を含む)を約133億ユーロ下回り、188億ユーロ(約2兆円)へと大幅に減少する。
2013年予算では引き続き教育および研究開発に重点が置かれているほか、鉄道・道路・水路など交通インフラの整備にも高水準の投資が見込まれている。そのほか、ESMへの出資を開始するとともに当初の払込額を2倍の87億ユーロとすることや、最低生活保障費(年間約40億ユーロ)の負担を市町村から連邦に移すことで地方財政の負担を軽減することなどが主な特徴となっている。
これに対して、初診料(Praxisgebuehr)の廃止、年金保険料の引き下げ、養育手当(Betreuungsgeld)の支給開始により、国民および企業の負担が約80億ユーロ軽減されることになっている。
構造的赤字がすべて解消 ドイツ政府は基本法(憲法)により予算の構造的赤字(新規債務から景気要因、一部の財政取引を差し引いたもの)を2016年までにGDPの0.35%以内に抑制することを義務づけられている。これに対して、2013年予算では構造的赤字幅は88億ユーロ(GDPの0.34%)となり、基本法の規定を3年前倒しで達成することになる。
予算と同時に決定された財政計画では、予算の構造的赤字は2014年にはゼロとなり、2016年には新規の借り入れを全く行うことなく、予算を均衡させる計画である。
ドイツ政府は財政のこのような急速な改善について、「基本法の債務削減条項で、景気要因による『見かけ上の健全化』を排除していくために『構造的赤字』に着目したことが大きな要因になっており、その結果2010年から2016年までの支出の伸びをほぼゼロに維持することができる状態にある」としている。
背景情勢
ドイツの実質経済成長率は2012年0.8%、2013年0.8%と、2011年の5.4%から大幅に低下する見通しである。しかしながら、雇用は引き続き改善の方向にあり、2013年は失業者数が若干増加するが、就業者数はさらに増加するとみられている(経済諮問委員会)。
そうした中で、ドイツ政府は予算策定にあたって、「ユーロ圏の危機がなお克服されず、アジアの成長力も低下している中で、これまでの健全化路線を追求していくことが重要で、2013年連邦予算はそのための堅固な基盤となるものである」と健全化路線の維持について説明している。
残る懸案事項
なお、2013年予算に関連して政府与党が提出している法案等のうち、次の3件が連邦参議院で野党の反対により否決され、連邦議会と連峰参議院との間の調整委員会にかけられている。(12月はじめ時点)
1.ドイツ人がスイスに保有する資産に対する課税に関するスイスとの協定(スイス側で10年前にまで遡及して21~41%課税するとともに、2013年からは利子に対してドイツと同等の課税を行い、ドイツに引き渡す協定。ドイツ側では2013年だけで約100億ユーロの税収を見込む。)
(追記:協定発効の2013年1月はじめまでに預金がスイスから他所へ移される可能性もあり、ドイツ側の受け取り額が推計を下まわったり、国内の預金者との間で課税に不公平が生じる恐れがあるなどの理由で、SPDおよび緑の党が反対し、2012年12月12日、調整委員会での調整が不成立。
2.賃金が上昇しても税率が上昇するために実質所得が上昇しない現象(いわゆるCold Progression)の緩和措置。(2013年予算では基礎控除額の引き上げや税率の調整で約60億ユーロの減税を見込む。)
(追記:調整委員会ではCold Progressionの緩和は否決され、基礎控除額を現在の8,004ユーロから2013年には126ユーロ引き上げ、2014年にはさらに224ユーロ引き上げることになった。最低税率は14%に据え置かれることになったことから、そのあたりの所得層は所得が増加するとの税負担もその分急速に増加することになる。)
3.年間租税法で定められる税務書類の保存期間の短縮。(税務当局や民間企業による書類管理コストの年間約25億ユーロの削減を見込む。)
(追記:調整委員会で否決。)
このほか、エンルギー効率向上のための住宅改修に対する税制上の優遇措置が懸案となっていたが、州が負担増を嫌って否決。連邦政府は「エネルギー・・気候基金」から毎年3億ユーロを8年間を拠出する計画。
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2012年連邦予算と財政計画の概要(歳入) (単位:10億ユーロ)
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予算 |
予算 |
財政計画.. |
2012年* |
2013年 |
2014年 |
2015年 |
2016年 |
支出 |
312.7 |
302.2 |
302.9 |
303.3 |
309.9 |
前年比増減(%) |
+5.6 |
-3.4 |
+0.2 |
+0.1 |
+2.2 |
2012~16年の年平均増減(%) |
-0.22 |
収入 |
.... |
税収 |
252.2 |
259.8 |
269.1 |
277.3 |
288.5 |
その他の収入 |
28.4 |
23.6 |
20.7 |
21.3 |
21.4 |
純借り入れ |
32.1 |
18.8 |
13.1 |
4.7 |
0.0 |
備考:投資(EMSへの資本参加を除く) |
27.0 |
25.6 |
25.4 |
25.2 |
24.9 |
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