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ドレスデン情報ファイル

ドイツの環境・エネルギー政策

 脱石炭法

背 景
 ドイツは2010年に温室効果ガスを2050年までに1990年比で80~95%削減する目標を設定したが、すでにその時点で排出量が多く、環境への影響も大きい石炭発電の廃止が不可避となった。
2020年の削減目標は1990年比40%であったが、2017年時点でその目標達成が困難なことが明らかになり、発電部門のCO2排出量の80%を占める石炭発電の廃止が本格的に俎上に上った。
 国産エネルギーの褐炭がドイツの発電量全体に占める割合は2020年時点で約16%。
全量輸入の石炭は発電の7.4%を占める。
 脱石炭法はこれらの発電を遅くとも2038年までに終了することとし、そのための道すじ、ステップ、補償等を定めている。

概 要
法律の名称:石炭発電の削減と終了および関連法規の改正に関する法律
(Gesetz zur Reduzierung und zur Beendingung von Kohleverstromung und zur Änderung weiterer Gesetze = Kohleausstiegsgesetz)
発効:2020年8月14日
目的:ドイツにおける石炭発電を計画的かつ経済的合理性、社会的均衡を保って終了し、持続可能なエネルギーへの転換を推進する。
 本法によって脱褐炭の道筋に関する合意および脱石炭に関する取り決めが実施に移される。
経緯:2018年6月6日  成長・構造変化・雇用委員会(石炭委員会)を設置。
           (政界、産業界、環境団体、労働組合および関係州の代表で構            成。社会の幅広いコンセンサスを図る。)
   2019年1月30日 石炭委員会が最終報告書を提出。
   2020年1月23日 連邦政府が各州および業界団体に対する意見聴取を開始。
            全体で50件の意見が提出された。
   2020年1月29日 脱石炭法案を閣議決定
   2020年7月3日   連邦議会および連邦参議院を通過。

法律の主な内容
目的:
 
石炭発電の段階的削減と終了。
 2022年末までに石炭および褐炭による発電を各15GWに削減。
 2030年末までに石炭発電能力を8GWに、褐炭発電の発電能力を9GWに削減。
 遅くとも2038年までに脱石炭発電を完了。
 閉鎖される褐炭発電が少ない年には石炭発電の閉鎖を多くすることによって安定的
な削減を図る。
脱褐炭発電の方法:
 事業主との契約に基づいて実施。
 脱褐炭の行程表および段階ごとの補償については関係州との間で基本的な合意が成  立している。
 契約では事業主による訴訟の放棄についても合意する。
 2020年末までに契約が成立しない場合、連邦政府は削減および終了を政令で定める ことができる。(注1:閉鎖日程はすでに決定している。)
脱石炭発電の方法:
 2026年までの期間は入札によって閉鎖する設備を決定していく。(閉鎖する設備の事業主に補償が行われる。)(2020年に実施された第1回の入札結果はこちら。)
 応札(MWあたりの補償額)の上限額を段階的に引き下げ、早く応札した方が多くの補償を受けられるようにする。
 2024年までの閉鎖が予定どおり進まない場合は法律で閉鎖を命じる。
 2027年以降最終年までの閉鎖も同様とするが、その場合、補償は行われない。
石炭発電停止に伴う電力供給の確保策
〇 石炭発電所の段階的閉鎖が電力の安定供給に及ぼす影響を定期的に確認する。連
 邦政府は2030年以降に予定されている閉鎖について、2026年、2029年および
 2032年に、閉鎖の時期を各3年前倒しする可能性を検討する。結果、可能と判断
 した場合は最終的閉鎖が2035年となる。中期的に石炭は再生可能エネルギーに
 完全に転換されるものとし、別途の定めを設ける。
〇 電力料金への影響も定期的にチェックし、結果によっては個人、企業の負担軽減
 措置を講じる。2023年からは国庫から年ごとに送電料の補助を行う。国際競争に
 さらされる電力集約的産業についてはこれによってもなお電力卸売価格の上昇が
 相殺できない場合、2023年以降、補助を受けることができる。
閉鎖によって不要となる排出権の扱い
 閉鎖によって不要となる排出権は連邦政府が抹消することを義務づけられる。
脱石炭の影響を受ける従業員の扱い
 58歳以上で、発電所または露天掘りの職を失う従業員に対しては調整手当が支給される。この手当は年金受給年齢に達するまでの最長5年間にわたって支給される。老齢年金の前倒し受給によって年金が減額される場合は補填が行われる。
 注)脱石炭で打撃を受ける産炭地機については別途「産炭地域構造強化法」、「産炭地域投資法」が定められ、経済、雇用などの促進が図られる。
副次的に熱を供給してきた石炭発電所が閉鎖された際の熱供給の確保策
 コージェネレーション法の有効期間を2029年末まで延長し、強化する。革新的なコージェネシステムにおいて再生可能エネルギーによる熱を利用するようインセンティブを設ける。さらに、石炭ベースのコージェネシステムに対する石炭代替ボーナス制を再構築し、金額を引き上げる。
ハムバッハの森
 ノルトライン・ヴェストファーレン州内のハムバッハ褐炭鉱(露天掘り)の拡大のために計画されていたハムバッハの森は伐採は行わない。


(注1)褐炭発電については2020年はじめの時点で閉鎖日程が決定している。
2020年~2022年:合計2,700MW(Neurath A, B, D, E、Niederaußem C, D、Weisweiler EまたはFの各発電所およびFrechenの練炭製造設備。いずれもライン地方)
2025年~2029年:合計5,700MW、うち、1,600MWは安全待機(休止)(Weisweiler EまたはF、Jänschwalde C. D、Weisweiler GまたはH、Boxberg N, P、Niederaußem GまたはH。
2033年以降:上記以外の各発電所。



以上



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更新:2021.06.11