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       ドイツの電力輸出入と需給動向
TOPICS 2020年は周辺国もコロナ・パンデミックによる経済活動の低下で電力需要が大幅に低下したものの、輸出入には例年と比較しそれほど大きな変化はなかった。
11月までの実績を前年と比較すると、輸出が8.8%減、輸入が17%減少し、出超幅前年のは半分ほどになった。
 1.概 況
ドイツは1998年に電力市場の完全自由化を実施した。電力業界は再編を通じて競争力の強化を図り、2003年以降、電力の出超が続いている。2011年央には原発の約半数が停止され、供給力が低下したため、輸入が一時的に増加した。しかし、その間に、再生可能エネルギーによる発電が急速に増加して、原子力発電の減少をカバーする一方で、褐炭・石炭発電が強い競争力を維持し、輸出が年を追って拡大している。
こうした中で、輸入は減少をたどっており、2017年には輸出から輸入を差し引いた純輸出が約53TWhに達した。
このように、ドイツは原発停止による発電の減少分を、輸入電力に依存することなく、再生可能エネルギー等で十分にカバーし、そのうえでなお輸出を拡大させている。
ドイツの電力輸出が増加をたどるのは供給余力があり、したがって、取引市場における価格が周辺国よりも低いのが主な要因である。
しかし、今後は原発の閉鎖が続くほか、CO2排出量の一層の削減を目的に石炭・褐炭発電を縮小していく計画であり、需給関係に変化が生じる可能性もある。
ドイツの電力網は周辺国と結ばれており、EUでは域内電力市場の一層の統合を進め、ドイツを含む各国間の競争を推進しつつ、EU全体として再生可能エネルギー発電を拡大し、CO2の削減を図りつつ、効率的かつ安定した供給体制を確立することをめざしている。

データ出所:Arbeitsgemeinschaft Energiebilanzen, Stromerzeugung in Deutschland ab 1990 nach Energietraegern (2019年は暫定値)
 2.電力需給動向
      (統計データはこちら)
変動の大きい再生可能エネルギー電力が増加
電力需要は季節や曜日、日中や夜間などで大きく変動する。ドイツでは最も多い時の需要がは最も少ない時の2倍以上に達する。そうした中で、再生可能エネルギーによる発電能力が急速に拡大しており、優先して電力網に流されているが、その量は需要とは関係なく、気象条件によって大きく変動する。発電に占める再生可能エネルギーの割合は2017年に年間をならして33%を超えたが、電力調査機関Agora Energiewendeによると2016年には太陽光、風力など再生可能エネルギーによる電力だけで国内需要の88%近くにも達した時間帯もあった。
柔軟性の低い大型発電所
需要の変動や再生可能エネルギーによる供給の変動に対応して需給をバランスさせるのは従来型発電であるが、恒常的な需要、いわゆるベースロードをカバーする原子力発電や褐炭・石炭発電は常に一定量の発電を続け、容易に出力を落とせない。いったん落とせば再稼働のためのウオーミングアップに膨大なコストがかかるからだ。とくに、国産の褐炭による発電は競争力が強く、高水準の発電が続いている。これに対して、臨機応変の稼働が可能なガス発電はコスト的に採算が合わず、設備の増強は進んでいない。
外国に引き取ってもらうことも
この結果、電力供給が国内需要を上回る状態が続いている。このため、電力取引所における価格は低下をたどっており、、オランダなど価格水準が高い国や供給力が弱い国は有利な価格で調達することができる。これが国境を超えた電力の取引(輸出)となる。それでも余剰となった電力はお金を払って(ネガティブプライス)でも引き取ってもらうケースも生じている。再生可能エネルギー電力は優先的に買い取られるほか、原子力発電や褐炭発電はもともと価格が低いので、国内で消費されるが、それらよりも価格が高い石炭発電の場合は高いコストを覚悟して一旦停止するよりも、お金をつけてでも引き取ってもらう方が負担が少ないという事態に陥ることがある。
送電網の不足も要因
少数の大型発電所による集中型発電体制に代わり、地域分散型の再生可能エネルギー発電が急速に増加ししているが、送電網の整備がこれに追いついていないことも輸出の増加に繋がっている面がある。特に風力発電は北部に多く、これからも北海での洋上発電が増加する見込みだ。これに対して南部では多数あった原子力発電が閉鎖され、風力発電も北部に比べて少ない。このため、南部で送電能力を超えて需要が高まると、南部の予備的発電能力をフル稼働させることになり、北部の電力が周辺国に流れざるを得ないという事態も生じている。
北部から南部へ電力を輸送するためには、大規模な送電線の建設が必要であるが、空中架線には景観や環境の観点で周辺住民の抵抗が大きい。このため、38万ボルトの直流高圧線を3,000km近くにわたって地下に埋設することが決定済みで、詳細な敷設経路の策定が行われている。
役割増す送電事業会社
以上のように、ドイツの電力市場では変動の大きい分散型再生可能エネルギーの増加やそれに伴って地域ごとの供給事情が大きく変化しており、時々刻々と変動する需給の中で、細部にわたって隘路や変調が生じることなく、安定した電力を供給していくという難しい役割を担うのが送電事業会社だ。
ドイツの電力市場は送電事業会社毎に4つの地域に分けられていて、各地域においてはそれぞれの送電事業会社が需要に見合った安定した電力供給に努める任務を負っている。各送電事業会社は自分の地域内で過不足が生じないよう他の送電事業会社との間で調整を行っている。
また、予備の発電所を確保するとともに、緊急時には大口需要家に消費の引き下げを要請するなど、臨機応変の態勢が求められている。
今後の課題
原子力発電は今後も順次閉鎖されていき、供給力が低下していく。褐炭はすべて国内で採掘され、ほぼ全量が発電に使われているが、CO2排出量が多く、環境政策上も削減していく必要がある。しかし、褐炭発電は引き続き電力の安定供給に一定の役割を果たしているほか、運営する大手電力には核廃棄物処理の費用負担の問題があるほか、構造改善の遅れた地域に立地しているため、雇用の問題もあり、早急な削減は容易ではない。
十分な蓄電技術が完成していない状況下で再生可能エネルギーの拡大と供給の変動の拡大を補うためには、臨機応変な稼働が可能で、効率の高い新鋭の天然ガス発電の拡充が不可欠である。
なお、2020年には原子力発電の終了、ドイツの電力供給余力をノルウェーの揚水発電に利用し、需給の安定を図るための海底ケーブルの完成、再生可能エネルギー付加金の低下などが見込まれている。

 3.安定した電力供給をめざすヨーロッパの広域電力網
電力市場が日本のように1か国内に限られる場合、一般の商品のように保存、在庫ができない電力は絶えず変動する需要に合わせて、過不足のないよう臨機応変に供給していかなければならない。
ヨーロッパでは各国が地域ごとに電力連結網に参加することによって実質的にひとつの大きな電力市場を構成し、国によって相違する発電や需要の変動に対して互いに補完し合い、安定した電力供給のための体制整備が行われてきた。
ドイツは中央ヨーロッパ諸国をカバーする電力輸送調整連盟(UCTE)に参加しており、送電網が周辺諸国と連結し、電力の国境を超えた取引を行っている
。UCTEは2009年に北欧、東欧地域のネットワーク組織と統合され、合計34か国で構成される上部機関ENTSO-E(ヨーロッパ送電事業者連盟)組み込まれている。ドイツを含む各国はこうした体制の下で、ヨーロッパ電力取引所(EEX、ドイツ・ライプツィヒ)などを通じて活発な電力取引を行っている。
しかし、現状では国によって電力市場自由化の度合いや法制度に違いがあるほか、位相の相違といった技術的問題もあり、まだ十分な協調体制ができているわけではない。EUでは環境目標を念頭に再生可能エネルギーの普及を図るとともに、各国、各企業間の競争を促し、効率的な域内統一市場の形成をめざしている。
 4.電力輸出入の動向
 国境を越えた電力の取引については国境を通過する物理的な電力量を基準に統計が作成されるのが一般的で、ドイツの統計庁でもこの方法をとっている。
当サイトではドイツ統計庁のデータを利用しており、国境を超える電力量および金額を「電力の輸出入」としている。この場合、、たとえばフランスからドイツを経由してスイスさらにはイタリアへ流れる電力の場合、フランスからドイツへの輸入、ドイツからスイスへの輸出の双方にカウントされるが、国境を接していないイタリアへの流れは明示されない。
これに対して、ドイツのエネルギー研究機関Agora EnergiewendeはENTSO-E(ヨーロッパ送電事業者連盟)が発表するデータを基に、各国間で売買された電力量を算出している。それによると、輸出入の総トータルでは物理的な国境通過量と大きな違いはないが、国別ではたとえばドイツはフランスに対して大幅な出超となり、国境を通過する電力量の場合と大きく相違する。
  (1) 季節で変動する輸出入
ドイツの夏はしのぎやすく、冷房を使う家庭がほとんどないことなどから、夏の間は電力需要が低下する。このため、需要が増加する冬期に備えて、夏の間に点検整備に入る発電所が多く、基本的な電力供給が低下することから、周辺国からの輸入が増加する傾向にある。電力の需要が増加する冬は発電所の基本的な電力供給力が高められるが、暖房は石油や石炭が中心で、夜間や休日には余力が生じるため、輸出が増加する傾向がある。(フランスでは原子力を推進する過程で暖房に電力が多く用いられるようになった。)
しかし、下のグラフのとおり、近年は輸出入ともに季節による変動が少なくなり、年間を通じて出超の状態にある。。再生可能園エネルギーの拡大で、とくに夏場は太陽光、冬場は風力による発電が増加することが大きな要因となっている。
   
 データ出所:連邦統計庁貿易統計(GENESIS ON LINE) 2020年は速報値。
  (2) 国別輸出入: 輸出先から第3国に流れるケースも
連邦統計庁によると、周辺国との輸出入は下のグラフのとおりで、フランスおよびデンマークに対して入超、オランダ、スイスオーストリア、ポーランドなどに対して出超となっているこの3年ほどは対チェコおよびデンマークで輸出が増加し、輸入が減少している。。全体としては輸出が輸入を大きく上回っている。
ただし、貿易統計では国境を接する国ないしは送電線で直接結ばれている国との間を往来する電力が把握されのみで、隣国を経由して行われる第3国との取引やドイツを経由する外国間の取引など、複雑な流れは明示されない。
ドイツエネルギー・水道連盟(BDEW)によると、オランダはガス発電が多く、電力の価格が高いため、ドイツからの輸入が多いが、ドイツからの輸入の半分弱はさらにベルギーや英国へ輸出されている。また、スイス、オーストリア向けに輸出された電力の一部は、電力の輸入依存度が高いイタリアへ流れている。その際、オーストリア経由の一部はさらにスロベニアを経由してイタリアへ流れる計算になる。なお、ドイツはスイス、オーストリアに対して、揚水発電の復水用電力などを供給しているが、夏は両国からの輸入が増えるとの指摘もある。ドイツは両国に対するフランスおよびチェコのからの電力供給の経由地にもなっている。
物理的取引量ではフランスからの輸入がが多いが、ドイツのエネルギー研究機関Agoraによると、取引金額でみるとドイツはフランスに対して大幅な出超となっている。
なお、オーストリアとドイツは共通価格地域と形成している。

下の2つのグラフのうち、上はそれぞれの国との国境を通過した物理的電力量、下はそれぞれの国との間の商業的取引量である。
  データ出所:連邦統計庁貿易統計(GENESIS ON LINE)、速報値
    データ出所: Agora Energiewende, The energytransitionin thepower sector: State ofaffairs2015
 
 5. 追 記
ドイツではエネルギー転換に伴ってさまざま問題も生じている。しかし、それらの問題は長期的な目標を達成していく過程でのことである。目標とは輸入燃料に依存しない、確実で安定したエネルギー供給、安全で安心、環境にやさしいエネルギー供給であり、ドイツを世界で最もエネルギー効率の高い、豊かな国のひとつとすることである(エネルギー・コンセプト)。再生可能エネルギーへの転換に伴うさまざまな問題を克服するために、発電、蓄電、エネルギー効率、環境などの面で技術開発やノーハウ蓄積が進められているが、それは将来にわたってドイツの国際競争力の維持・拡大にも寄与していくとみられている。(参考:「エネルギー転換に関するドイツ産業界の基本的考え方」)

  (資料) 電力輸出入統計
表 1 ドイツの月別電力輸出入量 (単位:GWh)
 輸  出   輸  入  バランス,, 
2018年 2019年 2020年 2018年 2019年  2020年 2018年 2019年  2020年
1月 7,542 8,679 7,702 2,510 1,484 3,360 5,020 7,195 4,342
2月 7,361 7,200 7,159 1,715 1,981 3,131 5,632 5,219 4,022
3月 7,857 7,598 5,971 2,177 2,413 3,701 5,681 5,185 2,270
4月 6,130 5,935 4,449 2,680 2,515 4,928
3,573 3,420 -479
5月 4,947 4,509 3,856
3,726 4,531 5,919 1,221 -22 -2,063
6月 5,133 4,001 4,057 3,414 4,957 4,547 1,745 -966 -490
7月 5,935 4,612 4,431 2,298 4,691 4,979 3,636 -79 -539
8月 6,271 4,347 4,498 2,500 5,114 3,912 3,771 -767 586
9月 7,405 5,179 4,263 2,573 4,084 3,633 3,658 1,099 630
10月 7,010 6,590  6,115 2,798 2,647 2,934 4,637 3,943 3,181
11月 7,010 5,963  6,482 2,412 2,939 3,101 4,598 3,024  3,381
12月 8,404 7,402 7,097 2,335 2,806 3,635 6,051 4,546  3,462
合計 80,225 72,015 66,074 31,138 40,172 47,771 49,087 31,847  18,303
  注)2019年および2020年は速報値
  データ出所:連邦統計庁貿易統計(GENESIS ON LINE)、当サイトによる計算
表 2 ドイツの相手国別電力輸出入量 (単位:GWh)
国名 輸 出  輸 入  バランス.. 
2018年 2019年  2020年 2018年 2019年  2020年 2018年 2019年 2020年 
ベルギー -  0 -  -   342 -  -  -342
デンマーク 5,934 6,638 3,318 4,570 3,118 6484 1,364 3,520 -3,166
フランス 2,535 2,334 2,762 10,983 15,684 12965 -8,447 -13,350 -10,202
ルクセンブルク 4,360 4,214 4,180 223 185 0 4,137 4,028 4,180
オランダ 20,914 11,126 8,543 735 5,332 8,677 20,179 5,794  -134
オーストリア 15,245 15,764 14,212 4,295 4,695 6,120 10,950 11,069  8,090
ポーランド 7,055 10,086 11,235 21 20 12 7,034 10,066  11,223
スウェーデン 481 600 414 1,295 1,328 2,511 -814 -728  -2,097
チェコ 7,581 7,352 9,078 4,903 3,445 3,172 2,678 3,907  5,906
ノルウェー  23 18  5
スイス 16,120 13,903 12,309 4,114 6,364 7,472 12,006 7,539  4,837
   注)2019年および2020年は速報値
   注)ノルウェーとの間には2020年12月10日海底ケーブル(NordLink)が開通。
   データ出所:連邦統計庁貿易統計(GENESIS ON LINE)、当サイトによる計算

エネルギー関係データ
1 温室効果ガス排出量の推移と削減目標
2 一次エネルギー消費の推移と削減目標
3 電力総消費量と再生可能エネルギー電力の割合-推移と目標
4 エネルギー資源 - 自給率、輸入依存度、輸入先
5 一次エネルギー消費量の推移(種類別)
6 発電のエネルギー源別内訳とその推移
7 エネルギー源別の発電能力と実際の発電量の推移
8 原子力発電所の現状と分布地図
9 2000年の原子力合意
10 電力輸出入の動向
11 電力価格の構成と推移
12 再生可能エネルギー拡大目標と進捗状況
13 (1) 再生可能エネルギー拡大の経済効果
(2) 再生可能エネルギーの拡大と経済成長率の推移
14 エネルギー政策年表(1KB)
15 エネルギー転換に関する産業界の基本的考え方
   
    
  -- ドレスデン情報ファイル 2011.08.05 --
改訂: 2016.08.26 更新:2016.09.25、2016.10.28、2016.11.24、2016.12.22、2017.01.26、2017.02.28、2017.05.01、2017.06.01、2017.07.20、2017.08.21、2017.09.26、2017.10.29、2017.12.05、2018.01.05、2019.11.29、2020.07.27、2018.02.11、2018.02.27、2018.03.11、20180330、2018.04.27、2018.05.22、2018.06.25、2018.07.27、2018.08.23、2018.09.24、2018.11.07、2018.12.30、2019.03.08、2019.10.24、2020.06.23、2020.08.20、2020.09.22、2020.10.24、
2021.01.28、2021.05.27